4年半の伴走が、上野・100年の扉を超えて世界へ──木更津のインテリアアート作家・樹芳さん、東京都美術館『第22回ベラドンナ・アート展』に出展、海外展開を主軸へ

  • 中尾芳江 様
強みを活かす

開館100周年を迎える東京都美術館で、千葉県木更津市の中尾芳江さん(作家名:樹芳)が出展。前年は同展で優秀賞を受賞。2021年11月から木更津市ビジネスサポートセンター・らづ-Bizで重ねてきた4年半の伴走が、いよいよ海外展開フェーズへ移ります。

2026年4月18日(土)から23日(木)までの6日間、東京都美術館(東京都台東区上野公園)1階第4展示室にて、女性アーティストの全国美術公募作品展「第22回ベラドンナ・アート展」が開催されました。本展は2005年発足、ジャンルを問わず「魂の自由」を表現する女性アーティストの公募展で、2012年から同館を会場とし、毎年数千人が訪れます。

千葉県木更津市を拠点に「世界で唯一のインテリア作品を作るアーティスト」として活動する中尾芳江さん(作家名:樹芳)は、本展に出展。前年の第21回展では作品「濤(なみ)」により優秀賞を受賞しており、2025年7月にはベラドンナ受賞者展示会(アモーレ銀座ギャラリー、東京都中央区)へも招待出展、今回の出展はその活動の連続線上にあります。

第22回ベラドンナ・アート展出展作品。漆黒の素材に無数の穴が穿たれ、内側に灯した光が点描の星空のようにこぼれる。「黒は光があってこそ見える」という作家の哲学を体現した一点もの。

「神社の境内で拾った植物」から始まった、もう一つの人生

中尾さんがらづ-Bizを訪れたのは2021年11月25日。事務職の合間にプリザーブドフラワー(枯れない花)の教室を続けて10~20年。「いずれはこの仕事だけやりたい」という思いを抱えながら、SNS発信もブランドもなく、全国に同業者がひしめく市場の中で次の一歩が見えない状態でした。
転機は2022年2月。「生きてる花と永遠の花を掛け合わせたら独自性が出るのでは」というらづ-Bizからの問いに応え、千葉県市原市の姉埼神社の境内で自ら拾い集めた植物を素材に、円形の作品を制作。「神社仏閣プランツアーティスト」というコンセプトが生まれました。同年7月には作風が「丸み、植物、ライト」の3要素に収束。教室の先生から、作家への第一歩でした。

「黒の底の黒は、光を当ててこそ見える黒である」

決定的な転換点は2023年11月、花材を探す過程で「Bottom of the Black」と呼ぶ素材に出会ったとき。深く沈んだ黒は、光を当てて初めて姿を現す──この発見が、その後の作品哲学を形づくります。
らづ-Bizでの相談では、黒という色そのものを多面的に掘り下げる時間が重ねられました。プロフェッショナル、神秘性、邪悪な力から守る、独立と反抗、東洋的な墨、繊細さと力強さ。「黒は単に暗さや悲しみを示すだけでなく、文脈に応じてさまざまな感情や状況を表現できる色」という言語化を経て、現在の作品群──宙(そら)、解(かい)、濤(なみ)、凮(かぜ)、螢(ほたる)、游(ゆう)、崙(ろん)──が生まれていきました。
それぞれの作品は単一漢字に閉じ込められた、自然の動きと解放の象徴です。たとえば「濤(なみ)」は「波というのは面白い、何百年も何千年も繰り返しているけれど、1つとして同じものは無い」という思索から、「凮(かぜ)」は「風と土が混ざって風土となっていく、一見ひれ伏したように見えて、人の心は強風に耐え地面に腰を据える時がある」という観察から立ち上がっています。

同一作品の四方向からの表情。見る角度が変わるたびに、光の集まりかた、影の落ちかた、輪郭のうねりが変容する。「黒は文脈に応じて多様な感情を表現できる色」という言葉のとおり、一つの作品が複数の物語を抱えている。

ブランド名「neighbor tulip」は、自分の人生から来ている

ブランド名の決定もまた、らづ-Bizでの自己発見の産物でした。「1番好きな花は?」という相談時の問いに対する答えが「チューリップ」「赤色」。そして「社会人で生花に出会った」「人生の中心ではなく、隣りだったから長く続けられた」という気づき。
ここから「いつも隣にいる作品、インテリア、それを植物で生活の中に取り入れる作風」というブランド定義が生まれ、neighbor tulip(隣のチューリップ)というブランド名が決まりました。「人生の中心ではなく隣にあるものこそ、長く付き合える」──この生活実感に根ざしたブランドの軸が、その後の作品制作と価格設定、メディア展開のすべてを貫いています。

受賞は到達点ではなく、通過点だった

2025年4月20日、東京都美術館で行われた第21回ベラドンナ・アート展の表彰式で、中尾さんは作品「濤」により優秀賞を受賞しました。同年7月には受賞者だけが出品するアモーレ銀座ギャラリー展(東京都中央区)へも招待され、他の受賞作家からもオリジナル性の高さを評価されました。
しかし、受賞は終着点ではありませんでした。受賞翌年(2026年)も同じ舞台に出展する選択をした背景には、「賞を取ることが目的ではなく、自身の作品を届け続けることが目的である」という制作姿勢があります。受賞後も電球のワット数選定、光源の角度、ビーズ詰めキューブ構造、表面テクスチャーの試行錯誤が続けられ、作品はさらに緻密化していきました。

2026年5月1日、上野で灯った100年の志と重なって

東京都美術館は1926(大正15)年5月1日、日本初の公立美術館として開館しました。建設資金100万円(現在価値で約40億円)を寄付したのは、九州の石炭商・佐藤慶太郎氏です。佐藤氏は美術館の設立にとどまらず、女子教育の向上や生活改善など、人々が「より良く生きる(ウェルビーイング)」ための活動に私財の多くを捧げました。
開館100周年を迎える本日2026年5月1日、同館は「世界をひらく アートのとびら」をキャッチコピーに掲げています。中尾さんの第22回ベラドンナ・アート展への出展は、その記念日のわずか1週間前。100年前に上野で灯された「すべての人にとってのアートへの入口」という志が、地方都市・木更津で4年半かけて作家へと変容していった一人の女性の前に、確かに開かれた瞬間でした。
そして同じ日、中尾さんは次の扉に手をかけています。

「次は、海外を主舞台に」

中尾さんは今後、活動の主軸を国内発表から海外への作品展開へ移していく計画です。「作品が海外へ向けての方が良くなってきた」という制作者自身の手応えと、「黒に光を宿す」「単一漢字に自然の動きを閉じ込める」という東洋的・日本的な発想が、欧米の生活空間に別の文脈で届く可能性が見えてきたためです。
ゴールデンウィーク中から、ホームページの英語表記化、価格帯の改定(高価格帯へ)、灯りがより際立つ新規撮影が同時並行で進みます。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)も国内向けと海外向けの並行運用へ移行します。
「日本語の一文字が持つ多義性や、生活の中に静かに自然の動きを呼び込む発想は、海外の生活空間にも届くと感じています。木更津の生活実感から生まれた世界観を、これからは世界へ届けたい」(樹芳さん)

らづ-Bizが伴走したのは、売上ではなく「もう一つの人生」

中尾さんは2021年11月から2026年5月までの4年半、らづ-Bizへ何度も足を運び、相談を重ねてきました。らづ-Bizはお金をかけずに知恵やアイデアで新たな価値を生み出すことを掲げ、これまでに延べ1万5千件を超える相談に対応してきた木更津市の事業支援拠点です。
中尾さんへの伴走は、「商品をどう売るか」より前の段階──作家としてのコンセプトをどう言語化するか、ブランドの軸をどこに置くか、作品のシリーズ構造をどう設計するか、価格帯をどう設定するかといった、創作と発信の土台づくりに長い時間が割かれました。漢字一文字の意味を辞書のように分解し、色の多義性を整理し、ブランド名の根拠を本人の人生から拾い直す。こうした共同作業の積み重ねが、いまの樹芳さんの作品世界を支えています。
「経営支援」という言葉は通常、売上の改善や資金繰りの安定を指します。しかし中尾さんとの4年半が示すのは、地方の経営支援センターが伴走できる範囲は、その人がやりたかったもう一つの人生にまで及ぶということ。地方都市から、国の中枢の美術館を経て、世界へ。樹芳さんの旅は、これからが本番です。


【作家プロフィール】
氏名:中尾芳江(なかお よしえ)
作家名:樹芳
ブランド:neighbor tulip(ネイバーチューリップ)
拠点:千葉県木更津市
ジャンル:インテリアアート(立体・一点もの。植物・光・黒を主要素材とする)
公式サイト: https://neighbortulip.com/
主な受賞:第21回ベラドンナ・アート展 優秀賞(2025年・作品「濤(なみ)」)
主な出展:第22回ベラドンナ・アート展(2026年・東京都美術館)、第21回ベラドンナ・アート展(2025年・東京都美術館)、第21回受賞者展示(2025年・アモーレ銀座ギャラリー)
今後の活動方針:海外への作品展開を主軸とする


【展覧会概要】
展覧会名:第22回ベラドンナ・アート展
会期:2026年4月18日(土)~23日(木) ※4月20日(月)休館
会場:東京都美術館 1階第4展示室(東京都台東区上野公園8-36)
主催:ベラドンナ美術協会
公式サイト: https://www.art-belladonna.jp


【会場・参考情報】
東京都美術館は1926(大正15)年5月1日、実業家・佐藤慶太郎氏の寄付により日本初の公立美術館として開館しました。2026年5月1日に開館100周年を迎え、記念キャッチコピーは「世界をひらく アートのとびら」。佐藤慶太郎氏は美術館設立のほか、女子教育や生活改善など人々の「ウェルビーイング(より良く生きること)」のための公益活動に私財の多くを捧げた人物です。


【お問い合わせ先】
木更津市ビジネスサポートセンター らづ-Biz
〒292-0838 千葉県木更津市潮浜1-17-59 木更津商工会館1階
TEL:0438-53-7100 FAX:0438-53-7101
公式サイト: https://razu-biz.jp

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